東京高等裁判所 昭和51年(ラ)349号 決定
抗告人
株式会社帆引パイプ商店
右代表者
帆引稔雄
右代理人
永尾廣久
外一名
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一抗告の趣旨ならびに理由は別紙のとおりである。
二当裁判所の判断
抗告人は、抹消された登記を回復すべき原因が、(一)善意の第三者には対抗できない無効に基づく場合、または(二)取消による遡及的無効における該取消後に取引関係に立つ第三者に対する関係の場合には、いずれも順位保全のために仮登記を認めるべきであるから、本件の如き場合においても申請を容れて仮登記仮処分命令が発せられるべきであると主張するが、本件は右抗告人挙示の二例とは全く事例を異にし、登記権利者の意思にも、また実体上の権利関係にも反して、偽造の登記申請書に基づいて抹消登記がされたとする場合であつて、このことは抗告人の主張ならびにその疎明上まことに明らかなところであるから、抗告人が右二例を挙示して原決定を非難することは、当を得たものであるとは言えない。
原決定は、抗告人挙示の二例の如き場合には、仮登記が許容されて然るべきであるが、本申請の如く絶対無効の場合は、仮登記をしておく必要性がないとするものであつて、その判断において何ら間然するところはない。更に附言すれば、不動産登記制度も制度として正当に利用されるためには、何ら実益のないものを許容する必要はなく、まして仮登記仮処分命令の申請は、非訟事件としての裁判を求めるものであるから、「正当な利益なければ申立権なし」の原則は、ここでも貫かれるべきであると言えよう。なお抗告人は、厳密には必要性がなくても、事実上今後本件不動産について利害関係に入ろうとする第三者に警告を与えて、その結果利害関係者の範囲の更に増大錯雑化することを防止しようとする必要があると主張するもののようであるが、そのような警告を第三者に与える制度としては、法は予告登記の制度を設けているのであるから、自ら訴提起の手続をとることなく、そのために警告的効果に均てん出来ないとしても、それは当然のことであつて、それなるが故に別途の制度である仮登記仮処分制度につき申請の利益を認める理由となるものではない。
よつて、主文のとおり決定する。
(菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)
抗告の趣旨、理由〈省略〉